人が亡くなると、死亡届の提出などのお役所関係の手続き、クレジットカードや電話、光熱費などの支払い関係の整理、それから相続財産についての相続関係の手続きなど、さまざまな手続きがあります。
今回は相続財産に関する手続きを抜き出して説明していきます。
相続の大まかな流れ
相続は被相続人が亡くなったときからスタートします。法律によって相続人に該当する人は、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に相続財産を確認して、単純承認・相続放棄・限定承認のうちどれを選ぶか決めます。被相続人の所得税の申告などの申告は4か月以内に。相続人が複数いれば分割割合を決めて、必要があれば10か月以内に相続税の申告と納付をします。
この手続きの中には、人生を良い意味でも悪い意味でも大きく変えてしまうものもあります。「面倒だから」「よくわからないから」と先送りにするととんでもないことになることもあります。ポイントを押さえて説明していきますので、最低限必要なことだけでも確認しておきましょう。
① 遺言書の有無の確認 | 相続開始直後 |
② 法定相続人の確認 | 相続開始直後 |
③ 相続財産の調査 | 3か月以内 |
④ 相続放棄・限定承認 | 3か月以内 |
⑤ 所得税・消費税の純確定申告 | 4か月以内 |
⑥ 相続税の申告と納付 | 10か月内 |
⑦ 遺留分侵害額の請求調停 | 1年以内 |
⑧ 不動産の相続登記 | 3年以内 |
① 遺言書の有無の確認
身内の方が亡くなったら、まずは遺言書の確認をします。遺言書で相続財産について書かれていればその遺言書の内容が優先されます。
遺言書によって相続財産の受取人が指定されている場合、その相手は法定相続人である必要はありません。孫や親せき、最後に介護してくれたヘルパーさん、友人知人、故郷の市町村、動物愛護団体、病院、学校など、公序良俗に反しない限りで好きな相手を指定できます。
ただし、遺言書が有効だとしても遺言書に書かれた被相続人の希望は必ず実現するわけではありません。受取人に指定された方が、遺言書の内容に不満があれば受け取る権利を放棄することも可能です。また受取人が相続人と話し合って遺言書の内容と異なる形で相続割合で相続することも可能です。
また法定相続人には、最低限の相続財産である遺留分が法律で認められていますので、遺言書の内容が遺留分を侵害していたら、自分の保障された取り分を請求することも可能です。
遺言書をみつける
とにかく相続は遺言書の有無が重要になりますので、一番最初に行うのがこの遺言書の確認です。
遺言書の種類は3種類、「公正証書遺言」「秘密証書遺言」「自筆証書遺言」です。
遺言書がみつからない、そもそも存在しない、
保管場所 | 必要手続 | |
自筆証書遺言 | 自宅など 法務局 | 法務局に保管している場合は、法務局に申請する必要がありますが 遺言書自体は保管時に内容を確認されているので裁判所の検認は不要です 自宅などで保管している場合は、裁判所の検認が必要です |
公正証書遺言 | 公証役場 | 公証役場に保管されていて、原本を閲覧したり謄本を交付するのに手続きが必要です 作成時に内容を確認されているので裁判所の検認は不要です |
秘密証書遺言 | 自宅など | 100%裁判所の検認が必要です |
遺言書を見つけたら
公証役場で保管されている公正証書遺言書と、自筆証書遺言保管制度で法務局で保管されている自筆証書遺言は、保管前に有効性を確認されているため、保管時点ですでに有効な遺言書になっています。
ところがそのどちらでもない遺言書は、裁判所で有効性を認められるまでは有効な遺言として扱われません。
遺言書は被相続人の死後は、すぐに家庭裁判所に提出して検認を受けなければなりません。
必要書類
1.申立書
2.添付書類
【共通】
1. 遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
2. 相続人全員の戸籍謄本
3. 遺言者の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本【相続人が遺言者の(配偶者と)父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合】
4. 遺言者の直系尊属(相続人と同じ代及び下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合,父母と祖父))で死亡している方がいらっしゃる場合,その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
【相続人が不存在の場合,遺言者の配偶者のみの場合,又は遺言者の(配偶者と)兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)の場合】
4. 遺言者の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
5. 遺言者の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
6. 遺言者の兄弟姉妹で死亡している方がいらっしゃる場合,その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
7. 代襲者としてのおいめいで死亡している方がいらっしゃる場合,そのおい又はめいの死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
裁判所 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html
遺言書の取り扱い注意点
法務局で保管されていない自筆証書遺言と秘密証書遺言は、開封前に「裁判所の検認」という作業が必要になります。これは本当に被相続人の遺志なのか、改ざんされていないか、内容が有効であるかなどを法律の専門家が確認してお墨付きを与えるものです。これは開封前にする必要がありますので、自宅や貸金庫などで遺言書を見つけても、絶対に開封しないでください。
また遺言書を破棄したり改ざんすると、相続人の資格を失いますので、これも絶対にやめましょう。
② 相続人の確認
遺言書があってもなくても、相続人を確認する作業は必要です。
もし遺言書があるなら、すべての相続人に遺言書についてお知らせしなければなりません。遺言書がなくても、相続人が複数いる場合は遺産分割協議をすべての相続人で行わなければ無効になってしまいます。
連絡が取れない相続人がいれば、連絡が取れないことを裁判所に認めてもらって、不在者財産管理人を決めたり、失踪宣告をして死亡したものとみなして相続を進めるなどの手続きをとります。
相続人の確認は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本をとるところから始めます。昭和生まれなら手書きの時代から今までの間に最低4通の戸籍謄本がありますがすべてを取り寄せる必要があります。
相続人は家族の方が正確に把握している場合が多いと思いますが、戸籍謄本を取り寄せて相続の手続きなどをする際に「相続人はこれで間違いありません」という証明をするためにも必要です。
相続人は被相続人の配偶者や家族などの構成によって、法律で誰が相続人になるのか決まっています。まず被相続人に配偶者がいれば100%相続人になります。
そのほかに、子供(子供が死んでいれば孫)がいれば子供が相続人になり、親兄弟は相続人になれません。
次に子供がいなければ、親(両親が死んでいて祖父母が生きていれば祖父母)が相続人になり、兄弟姉妹は相続人になれません。
最後に、子供も親もいない場合は、兄弟姉妹が相続人になります。
③ 相続財産の調査
「①遺言書を探して、②相続人を確認する」を先に書きましたが、現実的としてはこの「③ 相続財産の調査」も同時に進めた方がよいでしょう。
相続財産になるものは、現金預金、土地、家屋、証券類、車や宝飾品などの動産、借金、ローン、未納の税金、その他の権利義務も含まれます。相続するものがお金や不動産などプラスの財産だけならよいですが、借金や未納の支払いなどのマイナスの財産も相続財産になるので、場合によっては相続する方がマイナスになることもあります。
財産がプラスになるのが確実で、相続を放棄したり限定承認する可能性がゼロの場合は急ぐ必要はありませんが、負債が多くトータルでマイナスになる場合には、相続の開始があったことを知ったときからから3か月以内に相続放棄か限定承認の手続きを始めなければなりません。
そのためにも、特に事業をしていたり負債があることが確認できている場合は、できるかぎり早めに相続財産を把握して今後の方針を決めましょう。
④ 相続放棄・限定承認
相続財産の調査をして、相続をやめたい、またはプラスのときだけ相続したい、という場合には家庭裁判所に「相続放棄」または「限定承認」の申述をする必要があります。この手続きを相続があることを知ってから3か月以内にしないと、財産や権利義務も含めてすべて相続するという「単純承認」をしたことになります。
昔は家族の借金は亡くなったら家族が支払えというようなこともありましたが、いまは相続時の手続き次第で家族が遺す借金の支払い義務から逃れることができます。
例えば土地と家屋で1,000万円があるれど、借金が1,500万円あるとします。相続を放棄すれば1,000万円の不動産はあきらめなければなりませんが、1,500万円の支払い義務も一緒に放棄できます。もちろん、貯金ゼロで消費者金融の借金100万円だけを残して死んだ家族の借金も手続きをすれば支払わなくて済みます。
また借金がなくても、売れない山や、土地代よりも家屋の解体工事の方が高くつきそうな実家など、相続しないほうがよさそうな場合も相続放棄されることがあります。
この手続きは3か月以内に行わなければ認められませんので、必ず優先して相続財産の内容を調査して手続きは期限内に行いましょう。
⑤ 所得税・消費税の準確定申告
被相続人の、所得税、消費税の申告は4か月以内に行わなければなりません。わからない場合は、税理士に相談するか、税務署に相談してもよいでしょう。
⑥ 相続税の申告と納付
相続税の申告・納付は相続開始から10か月以内です。遅れた場合は、延滞税が加算されてしまうので、相続の手続きは早めに終わらせましょう。
相続の申告が不要なケース
ただし相続の申告と相続税の納付は、そもそも相続財産の総額が相続税の基礎控除の範囲内であれば必要ありません。
相続税の基礎控除額は「3000万円+(500万円×相続人の人数)」の式で求められます。例えば相続人が1人だけなら相続財産の合計が3500万円までは相続税が発生せず申告も不要です。
相続財産の算出時の注意点
相続財産の計算は、みなし財産、相続時精算課税制度、生前贈与などで、実際に残っている故人名義の遺産よりも増える場合があります。
例えば夫が亡くなり妻名義の預金が残っている場合に、妻名義の預金でも夫が稼いだお金で貯めたものだから夫の相続財産に加算されることがあります。
また生前から相続税対策で贈与をしていた場合は、期間と内容次第では過去にさかのぼって相続財産に戻されてしまったり、計算をし直しされることもあります。
どう計算しても基礎控除の範囲で楽々収まる場合は多少増えても問題ないので気にしなくてもいいですが、少し増えたら基礎控除額を超えるような金額的に微妙なラインの場合は相続に強い税理士に相談することをお勧めします。
⑦ 遺留分侵害額の請求調停
あなたが法定相続人で、本来相続財産の中から受け取れるはずの遺留分を受け取れていない場合は、相手に対して侵害された遺留分を請求することができます。
この期限は相続が始まったことを知ったときから1年以内、または相続開始から10年以内となっています。
相続財産がないと聞いていたのに、実は生前贈与でほかの人が受け取っていた場合などが考えられますが、期限内に請求しなければ権利が消滅してしまいますので、遺留分がないかどうかの確認はしっかりしましょう。
⑧ 不動産の相続登記
不動産の相続登記は以前は任意だったので相続しても面倒で変更ないままにしている方も多かったですが、令和6年4月から相続から3年以内に登記することが義務化されました。
違反した場合は10万円以下の罰金が課せられます。