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付言事項(ふげんじこう)

用語集

付言事項とは

付言事項とは、遺言書の中で遺産の分配など法的な行為とは別に、遺言を聞く人に残したい言葉を付け加えるものです。

遺言書で遺産の分配について記載する部分は
・銀行預金はすべて次男の〇〇に取得させる。
・遺言執行者は長男の〇〇を指定する。
といった形で記載するのが一般的です。
ここが遺言書では重要な部分になりますので、相続人それぞれに何をどう相続してもらいたいのかを法律の要件を満たす形で記載すれば遺言書としての役目は果たせます。

ただそれだけではちょっと味気ないですし、家族への思いを残してみたいという方も多いと思います。

いまはエンディングノートを用意している方も結構いらっしゃるので、そこに家族や親しい方へのことばを残す方もいらっしゃいますが、遺言書にも付言事項ということで項目を作り、自由に記載することが可能です。

付言事項は何を書くの?

遺言書の主要部分は、相続について法的に効果がある部分です。そして法的な効果はないけれど伝えたい事を付言事項として追加で記載します。

遺言書に遺産に関することと一緒に記載するので、内容は通常は相続人や親族に向けた内容になります。

平穏な相続

遺言書を書く方のほとんどが、家族や親族に争ってほしくない・平穏無事に相続を終わらせてほしいと思っているでしょう。ところが実際は遺言書を遺していても、いざ相続を始めると揉めたり関係が悪化するケースはとても多いです。

それを防ぐためにも、遺言書の付言事項には、ストレートに「遺産分割で揉めないで欲しい」と書くのはとても効果的です。

また「万が一揉めたら、遺言執行者が弁護士に依頼して○○の割合で分割して」など、揉めたときの対処法なども記載しておくとよいでしょう。

感謝のことば

そもそも遺言書は遺産の相続について相続人に宛てて記載するものなので、大抵の方が相続人に対する感謝のことばを記載することが多いです。

普段伝えていても伝えていなくても、最後の遺言書に改めて感謝の気持ちを書いてもらうと相手の心に響きますし、遺産分割がスムーズになる確率が上がるでしょう。

また家族や親族とはいえ、離れて暮らして何十年、盆暮れと冠婚葬祭くらいしか顔を合わせないということも多いでしょうし、中には10年20年会っていないということも考えられます。

遺言書の中で遺産の分割に合わせて、「妻には大変苦労をさせたのについてきてくれて感謝している」「長男は妻の介護をしてくれて助かった。今後も面倒をみてくれるといってくれて安心している」「次女と孫は、○年も毎週妻の介護をしてくれてありがとう」など書いておくと、それを知らない人たちにも被相続人と相続人の関係が伝わります。
それにその内容が遺産の配分にも関わってくる場合は「母の介護があるから長男が家を相続するのか」とか「次女はだから少し多めなのか」など相続割合についての理由付けにもなります。

遺産配分の説明

被相続人が亡くなり遺言書を相続人が見たときに、必要な事項が記載されていれば法的には有効かもしれません。ただ「土地は○○に遺贈します」「貯金は〇〇に遺贈します」だけ書かれても、その理由が書いてないと「お父さんなんでこの配分?」となってしまうかもしれません。
その時に「次男はこっちに戻ってくるつもりはなさそうだから土地は長男に遺贈する」とか「次男は結婚当初に1000万円を住宅購入費として贈与したから、遺産は少なくした」など、具体的なことがわかれば、当人はもちろん相続人全体が納得しやすくなります。

また遺言書が執行される時と遺言書を書いた当時と状況が変わっていることも考えられます。
例えば土地と預金が同額の頃に同額で分けるつもりで遺言書を書いたのに、相続が始まったタイミングでは、土地が2500万円で預金は2000万円で500万円の差があるかもしれません。
そこで付言事項として「平等に分けるつもりで決めたが、相続時に評価額に差が出てしまった場合は、現金で同額になるように調整してください」などの希望を書けば、揉める要素が一つ減るでしょう。

遺言書は、被相続人が遺す最後のことばです。遺言書を書いているときの気持ちや考えはしっかり伝えるようにしましょう。

遺す家族や親族について

自分がいなくなった後、配偶者、子供、兄弟、孫など、心配なこともあると思います。「誰の面倒は誰にみて欲しい」といった頼み事はもちろんですが、「喧嘩はほどほどに」「保証人にはなるな」「正月には必ず全員集まれ」など、思うことを遺言として残しておくだけでもとても大きな影響があるかもしれません。

最後の機会なので、好きなことを書きましょう。

事業について

ご自身で事業をされている方は、体はまだまだ大丈夫でも念のために遺言書を用意しているという方も多いですね。亡くなった時に、家族に事業のことがわかる人がいなければ大混乱で、下手をすると大きな損失を出してしまうかもしれません。

事業を継続して欲しいにしろ畳んで欲しいにしろ、事業について法的な効力が必要なことは、遺言書の事業についての項目でしっかり明記したり、遺言書とは別に契約書などで決めるなど、付言事項ではないところに記載します。

事業に関して付言事項で書くものは、法的に効力のないこと。例えば事業に対する思い、今後の希望、家族や親族の事業への関わり方、周囲への希望などが考えられます。残された人たちの意見が割れたり混乱するのを防ぐために、書きたいことは余さず書いておきたいですね。

お墓やお仏壇について

お墓や仏壇の今後についてしっかり託すのであれば、付言事項に記載するのではなく、負担付き遺贈など法的な効力が発生する形で記載することが望ましいです。

付言事項でお墓やお仏壇は「負担になるようだったら墓仕舞いして、中のお骨はまとめて海洋散骨してくれてかまわない」とか「仏壇置く場所もないだろうし任せるから好きにしていいよ」など、お墓の今後を決めていない方が多い印象です。

今はちょうどライフスタイル、宗教観、お寺やお墓との距離などいろいろなものが大きく変化しています。当たり前のようにお墓に入って先祖代々で守っていくのが当たり前な時代ではなくなってしまいました。お墓やお仏壇について決まっていない方は、付言事項に書く前に家族・親族と話し合っておくことをおススメします。

ペットについて

自分の死後、ペットについての希望は皆さんそれぞれいろいろな形であると思います。ただペットを引き取る・世話をするというのはお金も労力もかかりますし、頼まれても事情があってできないケースもたくさんあります。

ペットについては付言事項で「ふわっ」とお願いするのではなく、生前にきちんと話し合って負担付き遺贈などの形でしっかり託しましょう。

生前贈与について

複数の相続人がいて、それぞれに生前贈与をしていることもあると思います。例えば子供が二人いて、それぞれに住宅資金・孫への出費・負債の肩代わり・不動産の贈与などをしているとします。生前贈与した人はある程度把握していても、それぞれの相続人同士がそれを知っているとは限りませんし、知らないものがあるのではないかと勘繰ってしまうことも考えられます。

それを遺言書で「長男には生前贈与として、○と○とで合計500万円あげた。長女には生前贈与として合計800万円あげた。だから今回は相続財産をこういう風に分割した。」というように説明が書いてあると、遺産分割に掛かる時間もエネルギーも格段に減りますし、人間関係への影響も相当抑えられます。

また生前贈与はモノによっては「特別受益の持ち戻し」の対象になりますが、逆に生前贈与分を持ち戻しさせたくない場合は遺言書に記載することで生前贈与分を相続財産に加えずに相続財産の分割をすることもできます。
その場合は、付言事項ではなく遺言書に独立した条項として「○○の特別贈与○万円は、特別受益の持ち戻しを免除する。」という形で、法的に効力がある形で明言しなければ有効になりません。

遺言の内容が変わった場合の追加説明

相続財産の分割では「遺言書にはAと書いてあるけど俺はBと聞いている」「私が言われたのと違う」というような、相続人の記憶・遺言書の内容などの相違が非常によくあります。

原因は、被相続人があっちにもこっちにも違うことを伝えていたり、20年前は実家は長男にあげると言ったが今は長女に渡したいとか、最後の5年くらいで同居していた長男に世話になったから遺産を多く渡したいとか、資産内容が大きく変わって遺言の内容も変えたとか、とにかく十人十色の事情があります。

これは珍しいことではなく、むしろ当たり前のようにあることですが、誰かが勘違いしていたり、知らないうちに遺言の内容が変わってしまうと、争いの大きな火種になりかねません。
遺言の内容が変わった場合は、変更をスムーズに受け入れてもらうためにも、変更した理由やご自身の気持ちや考えを付言事項に記載しておきましょう。

付言事項に法的な効力はある?

付言事項は、法的な効力はありません。
ですので、法的に拘束力が欲しい事柄については付言事項に希望として記載するのではなく、法的に効力のある形で残す必要があります。

例えば、妻の面倒をみることを前提として長男に実家を相続させたいとします。
その場合は遺言書の【実家を遺贈する】という条項に
【長男は、前項の遺言の負担として、遺言者の妻が老人ホーム等の施設に入居するまでは、妻を実家に無償で居住させ扶養する義務を負う。】
というような形で記載すると法的な効力が生まれます。

付言事項以外の項目で、法的に有効と認められる形式で記載しましょう。

付言事項のまとめ

遺言書は、法的に有効にするために、定型文の形で記載していきます。自分の希望通りの内容を法的に有効な形で必要最低限のことだけを書いても遺言書は有効なものになります。
ただ、それでは相続人に対する思いは伝わらないかもしれません。

遺言書は、相続人になる家族・親族・近しい人々に対する最後のことばになります。そこに書かれた思いはのこされた人に強く残ります。
普段から伝えていること、普段は口にしにくく胸にしまっておいたこと、自分がいなくなった後に心配なことなど何でも構いません。最後にゆっくりお別れができないかもしれない、ということも考えて言い忘れることのないように付言事項を書きましょう。

ちなみに、遺言書は基本的に相続人や利害関係者が見ることになります。特定の人に伝えたい事などは、エンディングノートに書いたり、それぞれに宛てた手紙を別で用意して、それを渡してもらうような形がいいかもしれません。

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