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持ち戻し(もちもどし)

持ち戻しとは 用語集

相続の持ち戻しとは

相続の際に使われる「持ち戻し」という言葉には、大きく分けて2つの意味があります。

1つは、相続税の計算をする際に、法定期間内に被相続人が相続人に生前贈与した財産を相続分に加算して、相続税を課税するために行うもの。生前贈与加算と呼ばれます。
例えば預金5000万円をもつAさんの相続人が長男と長女の二人の場合に、Aさんが亡くなる1年前に長男長女のそれぞれに110万円ずつ贈与税が無税の範囲内で生前贈与を行ったとします。
この場合、220万円はすでに子供二人に無税で贈与しておりAさんが亡くなった時の預金は4780万円ですが、この220万円は法定期間内に贈与しているので生前贈与加算の対象になり、相続税を計算するときには贈与がなかったものとして、5000万円が相続の対象として相続税を計算されてしまいます。

もう1つは、相続税や贈与税などとは別に、被相続人(故人)から特別受益をうけたものを期間に関係なく洗い出し、それを加味して相続の分配を行う、相続人間の公平を目的に行うものです。特別受益の持ち戻しと呼ばれます。
例えば預金5000万円をもつAさんの相続人が長男と長女の二人の場合に、Aさんが亡くなる10年前に長男にだけ2000万円を家の建築費用として贈与していたとします。Aさんが亡くなった際の預金が3000万円になるので、預金を半分に分けますが、過去に2000万円もらっている長男は5000万円のうち7割の3500万円をもらい、過去に贈与を受けていない長女は、預金だけをみると1500万円しかもらえないことになってしまいます。
これではあまりに不公平で、相続の際に争いの種になってしまいます。これを避けるために、民法では「相続の際は、過去にもらったものも一度全部並べて、公平に計算しなおしなさい」と決めています。

このように相続の場で「持ち戻し」といっても、上記のように全く違う2つの「持ち戻し」があります。
これはかなり重要なものなので、相続税が発生する方もしない方も、ちょっとがんばってしっかり理解していきましょう。

生前贈与加算

人が亡くなる前に、1年間に110万円までは、無税で贈与できるので、相続税が発生しそうな方は、相続人に生前贈与という形で少しずつ財産を贈与している方も多いと思います。
ただし、この生前贈与が適用されない条件があります。
それは、被相続人が亡くなった時から法律で定められた期間内に、相続人に対して贈与された財産は、贈与税非課税分も、相続財産に加算して計算される、というものです。
これが以前は、被相続人が亡くなってから3年分が生前贈与加算の対象でしたが、令和5年の相続の改正により、2024年1月1日以降の贈与分について、死亡日以前7年まで延長されました。つまり2030年12月31までに亡くなると、免除の対象外として持ち戻しされて課税対象になってしまいます。

(相続開始前七年以内に贈与があつた場合の相続税額)
相続税法 第19条

相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前七年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産(第二十一条の二第一項から第三項まで、第二十一条の三及び第二十一条の四の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの(特定贈与財産を除く。)に限る。以下この条及び第五十一条第二項において同じ。)(以下この項において「加算対象贈与財産」という。)の価額(加算対象贈与財産のうち当該相続の開始前三年以内に取得した財産以外の財産にあつては、当該財産の価額の合計額から百万円を控除した残額)を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし、第十五条から前条までの規定を適用して算出した金額(加算対象贈与財産の取得につき課せられた贈与税があるときは、当該金額から当該財産に係る贈与税の税額(第二十一条の八の規定による控除前の税額とし、延滞税、利子税、過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税に相当する税額を除く。)として政令の定めるところにより計算した金額を控除した金額)をもつて、その納付すべき相続税額とする。

 前項に規定する特定贈与財産とは、第二十一条の六第一項に規定する婚姻期間が二十年以上である配偶者に該当する被相続人からの贈与により当該被相続人の配偶者が取得した同項に規定する居住用不動産又は金銭で次の各号に掲げる場合に該当するもののうち、当該各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める部分をいう。

 当該贈与が当該相続の開始の年の前年以前にされた場合で、当該被相続人の配偶者が当該贈与による取得の日の属する年分の贈与税につき第二十一条の六第一項の規定の適用を受けているとき 同項の規定により控除された金額に相当する部分

 当該贈与が当該相続の開始の年においてされた場合で、当該被相続人の配偶者が当該被相続人からの贈与について既に第二十一条の六第一項の規定の適用を受けた者でないとき(政令で定める場合に限る。) 同項の規定の適用があるものとした場合に、同項の規定により控除されることとなる金額に相当する部分

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000073

特別受益の持ち戻し

こちらは税金とは別の目的で、相続人が複数いた場合に、生前の特別受益も加味して計算することで相続人間の不公平を緩和するためのルールです。目的も計算方法も全く違いますので、生前贈与加算の7年ルールとは全く別物として考えてください。

相続の分割の際場合に使われる特別受益とは、生前に被相続人から相続人が受けた特別な利益のことを指します。例えば、高額な学費、結婚費用、孫の教育費、自家用車、不動産の頭金、生前贈与など、どれも特別受益に当たる可能性があります。(ただし、特別受益にあたるかどうか微妙なものもあり、被相続人がお金を渡したり使ったりしたものがなんでも持ち戻しできるわけではありません。

例えば相続人が長男と長女の二人だけで、遺産が2000万円あるとき。法定相続割合通りに1000万円ずつ分けようとしたところ、長男だけが家を建てるときに1000万円援助してもらって長女は全くもらってないのは不公平だと長女が持ち戻しを主張し認められれば、長男だけ援助された1000万円を相続財産に加算して、1500万円ずつ分けることができます。つまり3000万円のうち、長男は以前1000万円もらっているので今回の遺産からは500万円だけ、長女は今回の遺産から1500万円を受け取ることができます。
ここで1000万円を持ち戻しで計算するかどうかは、遺産分割協議で話し合って当事者同士で決めることができるので、持ち戻すことが義務ではありません。

そして、この特別受益は贈与税の法定期間の7年どころか、期間に関係なく何十年でもさかのぼって持ち戻すことができるので、相続財産の分配に影響を及ぼします。

(特別受益者の相続分)
民法 第903条

  1. 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
  2. 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
  3. 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
  4. 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E6%B0%91%E6%B3%95%E7%AC%AC903%E6%9D%A1
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