相続の限定承認とは
相続とは、被相続人の権利と義務の両方を受け継ぐということです。通常の相続である単純承認では、権利も義務もどちらもある分だけ引き受けることになります。この場合に、相続する資産よりも負債の方が少なければ問題ありませんが、負債の方が多い場合、または負債が少なくなりそうな場合などは、単純承認をすると負債の方が大きい場合に相続財産だけでなく自分の財産からも弁済をしなければいけなくなるかもしれません。
限定承認とは、相続人が遺産を相続するときに、相続財産を責任の限度として相続することです。
相続財産を責任の限度というのはちょっとわかりにくいですが、負債があっても相続財産の範囲内でしか弁済しないですよ、負債の方が少なかったら余った相続財産はもらいますね、という感じです。
たとえば、被相続人の借金が1000万円あって、遺産もそれくらいある場合に、限定承認で相続を進めるとします。
ちゃんと進めてみたら、遺産が800万円にしかならなかったら、遺産で返済できなかった残りの200万円は相続人が弁済する必要がなくなります。
逆に相続財産のうち土地が高く売れたりして1200万円になったら、借金を弁済して残りの200万円は相続することができます。
(限定承認)
民法 第922条相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
民法第922条 – Wikibooks
相続の単純承認との違い
限定承認の場合、負債の返済の責任が相続財産の範囲内と限定されているのに対して、単純承認は負債の返済の責任が無限です。
この責任が有限か無限かというのが最大の違いです。
例えば借金が500万円で相続財産が1000万円だと思って相続したら、実は知らないところで別に1000万円の借金があったとします。
限定承認であれば、相続財産が1000万円であればそれが責任の限度なので1000万円を超える負債の返済義務はなくなります。ところが単純承認は無限責任なので、相続財産の1000万円を超える負債も自分の責任で払うことになります。
(単純承認の効力)
民法 第920条相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
民法第920条 – Wikibooks
相続放棄との違い
相続の放棄は、初めから相続人にならないということです。一度単純承認や限定承認で相続をはじめたけれど途中でめんどくさくなったので放棄する、というのとはまったく別の話です。
相続の放棄は、相続開始から3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。相続放棄をした人は、相続人からは外れるので遺産を受け取る権利も、被相続人の負債を弁済する責任もありません。相続人ではなくなるのですべてがゼロになります。
身内が遺産よりも大きな借金を残して亡くなると、昔は借金の返済を家族に迫ったりすることがまかり通っていましたが、いまは貸金業の法規制が非常に厳しいため、保証人でもない限りは請求できないので相続放棄をするのが一般的です。
相続財産の範囲内で責任を負うかわりに、残った遺産を相続する権利もある限定承認との違いはそこでしょう。
まとめると単純承認が無限責任、限定承認が有限責任、相続放棄は責任無しです。
(相続の放棄の効力)
民法 第939条相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
民法第939条 – Wikibooks
相続の限定承認は相続人全員で
相続人が2人以上いるときに限定承認をする場合は、相続人全員が限定承認をする必要があります。もし相続人の中に1人でも単純承認をしたい人がいて調整ができないときは全員が限定承認をできなくなり、単純相続か相続放棄を選ぶことになります。
ただし相続人のうちに相続放棄を希望する人がいるときは【相続放棄は最初から相続人ではない】という扱いなので、希望する人がいれば相続放棄をしても全く問題ありません。残った相続人が全員で限定承認をすればいいのです。
(共同相続人の限定承認)
民法 第923条相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
民法第923条 – Wikibooks
限定承認の期限
限定承認は相続放棄と同じく、3か月以内に行わなければなりません。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
民法 第915条民法第915条 – Wikibooks
- 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
- 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。